⑴ :デューデリジェンスの実施を検討する
まずは、そもそもデューデリジェンスを実施するか検討しましょう。
基本的には実施した方が買い手にとって一定程度リスクを抑えることができます。
デューデリジェンスを実施した場合は、マイナス要素の何かが見つかりますので
その結果を踏まえて、価格交渉の材料とすることもできます。
一方で、時間と金銭的負担が買い手に生じますのでこの費用対効果を踏まえて
デューデリジェンスの実施を検討する必要があります。
買い手の懸念しているリスクが移転しないようなM&Aのスキームを検討・実施して
デューデリジェンスを省くことも有効な選択肢の一つです。
加えて、スキームや業態によってはデューデリジェンスを実施した方がいい場合もあります。
例えば、株式譲渡のスキームを前提にM&Aを進めていたにも関わらず
実は交渉相手が株式の全部を持っておらず、大株主が他にもいる場合など
(そしてそれを交渉相手の株主が知らない場合)は
そもそもM&A自体が実行不可能になってしまうリスクがあります。
このような場合は、最終的にそのリスクを負うのは買い手になるので
信頼できるアドバイザーに依頼をするか、そのリスクを低減させるために
デューデリジェンスを適宜実施する必要があるでしょう。
一方で、デューデリジェンスを実施することは売り手にとってほぼメリットはありません。
むしろデューデリジェンスに対応するための負担が増えて
価格交渉が不利になる可能性が高くなるので、売り手の心理を踏まえると
デューデリジェンスを避けた方がいい場合もあります。
デューデリジェンスのメリットデメリット、双方の状況などを踏まえて
慎重に検討することをオススメします。
デューデリジェンスの結果、M&Aの交渉が失敗に終わることも在るという事は事前に把握しておきましょう。
結局は、M&Aで生じうるリスクを全て受け入れられるのであれば
デューデリジェンスを実施しなくてもM&Aは実行できます。
またリスク要因が実体化しても、影響が無視できるほど僅少であれば買い手にとって問題となりません。
買い手の状況によってもデューデリジェンスを実施するかどうかは異なるということです。
ただし、その生じうるリスクを全て把握することは不可能だということは理解しておきましょう。
⑵:どのデューデリジェンスを実施するか検討する
次に、どのデューデリジェンスを実施するかを検討します。
デューデリジェンスを実施することは決めた場合でも
どのように実施するデューデリジェンスを検討すればいいのでしょうか?
それは買い手が、その案件に関してどの領域にリスクを感じるかを元に判断します。
例えば、シナジーなどを得るためにM&Aをするのであれば
ビジネスデューデリジェンスを実施することで、よりそのシナジーを具体的に想定できるでしょう。
あるいは、業種的に労務リスクが多い場合は
労務デューデリジェンスを実施することでそのリスクを把握することができます。
しかし、初めてM&Aをする方で中小企業が対象の場合は
最低限、財務デューデリジェンスは実施しましょう。
これは、中小企業の決算書は実態と大幅に異なることがとても多いため
財務デューデリジェンスだけは実施して、そのリスクを減らした方がいいからです。
実態を適切に反映していない決算書をもとに価格を算定しても、間違った結果としかなりえません。
そして、M&Aでの大きなリスクとして投資回収できないような高値掴みをすることがあります。
高値掴みをした場合は投資回収が厳しくなります。
そして、高値掴みになる原因の一つが実態を反映していない決算書です。
それを防ぐ意味でも財務デューデリジェンスは実施した方がいいでしょう。
この時、売り手の業種業態に詳しいアドバイザーだと
売り手企業のリスクがどこにあるのかを適切に把握して評価することができるので
その業種に詳しいアドバイザーがおすすめです。
⑶:デューデリジェンスの作業を依頼する専門家を決めて、作業を依頼する
実施するデューデリジェンスを決定したら
次はデューデリジェンスをしてくれる専門家を決めて依頼しましょう。
選ぶポイントとしては、経験があることもそうですがその業種に詳しい方がベストです。
業種ごとの業界慣行や特有の論点(=リスク)がありますので、その業種に詳しい人に頼むことが
より効果の高いデューデリジェンスを実施してくれます。
しかし、デューデリジェンスを依頼したくても誰に依頼すればいいのかわからないことも多いと思います。
その場合は、以下の方法で専門家を探しましょう。
① バトンズの支援専門家から選ぶ:
弊社がプラットホームとして提携しているバトンズなどで支援専門家一覧から依頼するのも一つです。
バトンズなどに登録している方は、M&Aに積極的に取り組んでいる方が多いので経験が豊富な可能性が高いです。し士業(専門家)ではない方もいますのでその点は注意しましょう。
士業でなくてもデューデリジェンスをできますが、どうしても知識は劣ることが多いでしょう。
その代わり価格が安かったりします。士業でないなら、経験豊富な方がいいでしょう。
②士業に紹介してもらう:
デューデリジェンスは以下のように士業の業務領域と被ることが多く
士業がデューデリジェンス業務を受けている場合が多いです。
これは、デューデリジェンス業務には一定程度専門知識が必要であり
士業にデューデリジェンス業務を依頼するのが圧倒的に多いためです。
そして士業は、士業同士でつながっていますので、顧問税理士などから紹介をしてもらうといいでしょう。
一般的に依頼する対象は以下のとおりです。
・ビジネスデューデリジェンス:その業種に詳しいコンサルタント等
・財務デューデリジェンス:公認会計士
・税務デューデリジェンス:税理士
・法務デューデリジェンス:弁護士
・人事労務デューデリジェンス:社労士
・ITデューデリジェンス:IT系のコンサルタント等
③インターネットなどで検索する:
○○デューデリジェンス業務と検索すると沢山出てくると思いますので
依頼したい方を探されるのも一つです。
ただしネット検索で出てくるのは大手が多く
その値段はとても中小企業が払える規模ではないことが大半ですのでご注意ください。
また売りと買い両方の仲介をしている場合は、その仲介にはデューデリジェンス業務を
依頼しないほうがいいです。
売り手とも契約してますので、利益相反行為に該当する恐れがあります。
また人間の心理として、仲介の受託者として売り手の機嫌を損ねないように
ちゃんとデューデリジェンス業務を実施できなかったり
売り手から圧力を受けたりして適切な作業ができないことがあります。
⑷:デューデリジェンスのスコープを過不足なく確定させる
デューデリジェンス業務を専門家に依頼したら
専門家やアドバイザーと相談してスコープを過不足なく決定しましょう。
デューデリジェンス業務の満足度を高めるにはここも大きなポイントです。
スコープとは、調査範囲や調査対象のことです。
どこを重点的に調べるかを事前に決めておかないと
やたらお金と時間をかけてデューデリジェンス業務を実施した結果
売り手の機嫌を損ねたうえで、大した成果が得られないことになりかねません。
ではどこをスコープに入れて、どこをスコープから外すかを検討しないといけないのですが
これはデューデリジェンス業務を依頼する専門家やアドバイザーと相談して決定しましょう。
そのビジネスに詳しい方であれば、リスクが高いところとそうでないところを知っています。
そのリスクが高いところをメインに作業依頼することで
金銭的・時間的負担が売り手買い手双方削減されつつ、必要なリスクは報告してくれますので
デューデリジェンス業務を低コストでかつ効果と効率を最大限発揮できるでしょう。
⑸:デューデリジェンスの結果を踏まえて、再度M&Aを検討する
デューデリジェンス業務が完了したら、専門家から報告を受けます。
デューデリジェンスの結果、どこにどのようなリスクがあって
それがどの程度金銭的影響や発生可能性等があるかなどを教えてくれます。
その結果を踏まえて、そのリスクに対して買い手がどうするかを検討します。
リスクへの対処方法は主に以下のとおりです。
①リスク回避:リスクを回避することを考えます。
例えば、未払い残業代などを請求されるのが怖いのあれば
株式譲渡ではなく事業譲渡のスキームを選択するなどです。
あるいは、M&A事態を取りやめることもあります。
②リスク低減:リスクの発生可能性や影響を減らすことを考えます。
例えば、訴訟潜在案件があった場合、訴訟に対抗する準備をしたり
そもそも訴訟にならないように仲裁を選択したり、対処法を考えたりすることで
訴訟が実現する可能性へ減らす場合があります。
③リスク移転:リスクを他へ移すことを考えます。
例えば、未計上の債務が多額にありそうな場合などで
その債務が買い手に請求された場合は、売り主に負担してもらうように表明保証条項に含めたり
譲渡代金にその分を反映させて、リスクを売り手に移転させることがあります。
④リスク保有:リスクを受け入れます。
例えば、将来的に税務調査が入った場合、指摘を受けて追徴課税を負担する可能性がある場合
買い手がそのリスクを受け入れて、なにも対処しない場合があります。
前述のように、企業規模が大きく違う場合や、そのリスクの発生可能性が十分に低い場合などです。
また、リスクはあったとしても、その影響と発生可能性の観点からも検討しましょう。
例えば、未払残業代が多額にあったとしても、請求されなければ、そのリスクは実現しません。
その観点でも考えると過大なリスク評価とならずにM&Aの実行を検討できます。