コラム

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2023.12.30

買い手側における「トッブ面談・基本合意契約締結」のプロセス

買い手側における「トッブ面談・基本合意契約締結」のプロセス

⑴ 日程調整・事前準備
まず買い手は、トップ面談の依頼を売り手にします。
その後日程調整をして、同時に面談に向けて
質問リストの作成や準備など事前準備をしましょう。
また買い手も質問を受けますので、その想定Q&Aを作成します。

ここでのポイントは、事前準備とスピード感です。

まずは、自社のプレゼン資料を事前に作りましょう。
当該売り案件をM&A/事業承継することでどのようなメリットを得ることを目的としているのか
将来の展望などを伝えて売り手へアピールしましょう。
特に、なぜその会社(なぜその売り手企業が欲しいのか)かをしっかりと伝えましょう。
その熱意が伝わると売り手は、M&A/事業承継への方向性を確認できたり
すり合わせたりすることができます。

結果、方向性が同じであれば多少その他の条件が、売り手の希望と合わなくても最終的に売ってくれる可能性が高まります。
売り手は金額だけが大事なのではないのです。
従業員やお客様などのことを考えて総合的に判断する以上、買い手を知りたいのです。
その中には、なぜM&A/事業承継したいのかが含まれています。

又、売り手への質問事項を事前にまとめておきましょう。
買い手として把握しておくべきことはたくさんあります。
自社のM&A/事業承継を通して実現したいメリット・目標をその案件を進めることで実現できそうか?
という視点で検討すると質問すべきことが出てくるでしょう。
また、アドバイザーと相談してその他事前に把握しておくべき質問事項のアドバイスを貰えるとベストです。
同時に、買い手も質問を受けることが一般的ですので、想定Q&Aを作っておきましょう。
売り手へのアピールにもなりますしできる準備はしておくことが一番です。

⑵トップ面談
次に、トップ面談を行います。
初面談はお互いに簡単な自己紹介、経営ビジョン、企業文化、M&A後の将来像などビジネス的な話や
経営者の考え方、人柄など企業としてだけではなく、経営者としての相性の確認も行います。

⑵ 検討・再度の面談(1回~複数回)

その後、その案件をM&A/事業承継するのかを検討します。
M&Aアドバイザーとも適宜連携しながら次のステップに進めるかを
慎重に検討しましょう。
必要であれば再度トップ面談を実施しましょう。

ここでのポイントは
売り手・買い手候補の双方が相手側の人間性や企業文化、ビジネスへの理解を深め
疑問点を解消して、M&A/事業承継の相手方として相応しいかを見極めることです。

そのためには、誠実で丁寧なコミュニケーションが必要となります。
初回のトップ面談は、「相性の確認」+簡単な質疑応答+その案件に対する熱意を
簡単に伝えるくらいのイメージがおすすめです。
その後の面談で徐々に深堀していきましょう。
とりあえず進めて後で質問しようとすると
内容によっては契約直前で案件自体が無くなってしまうことがあります。
気になることはしっかり聞いて解決することが最終的な契約への大切なプロセスです。
特にお金を払うのは買い手ですので、疑問点は解消することがオススメです。

また売り手のポイントと同じですが
トップ面談では、いきなり金額や条件などの直接交渉をするのはお勧めしません。
面談の雰囲気が悪くなりますし、相手方の心証を悪くすることが多いです。
複数回の面談後で実施したり、仲介会社やアドバイザーを通しての金額交渉がお勧めです。
自分で交渉するのは難易度が高く、これが原因で交渉決裂することも多いので
交渉は仲介やアドバイザーに任せることが最終的により良いM&A/事業承継に繋がります。


⑶:検討・再度の面談(1回~複数回)(売り手とほぼ同じ内容です。)

ここでのポイントは、丁寧な検討と妥協しないことです。

たった1回のトップ面談で、双方の企業文化や経営理念などのすべてを理解するのは難しいでしょう。
仲介会社やアドバイザーを通して、疑問点や懸念点の解消に努めることも必要になってきます。
必要があれば再度トップ面談をアレンジしましょう。
買い手の場合は、買ったら今後、自分の会社として運営していくことになります。
その点を意識して検討しましょう。

そして買収することで、自社の目的に合わせたM&A/事業承継が実施できるのかを、仲介会社やアドバイザーなどとコミュニケーションを取り
スキームも含めて再度丁寧に検討しましょう。
ここで疑問点や懸念点があれば、アドバイザーなどとディスカッションしましょう。
最終契約の締結はまだ先ですが、基本合意書を締結すると独占交渉権が付与されることが多いので
後戻りしづらいです。慎重に検討をして進めましょう。

⑷意向表明書の提出
そしてトップ面談の結果を踏まえて、買い手がM&A/事業承継を前向きに実施したい場合、「意向表明書」という書類を提出する場合があります。
しかし、これは必須の書類ではありません。中小企業同士のM&Aでは省略されることもあります。

ここでのポイントは、条件の交渉がポイントです!

意向表明書とは、買い手候補がM&A/事業承継の意向を示すために
売り手に提出する書面であり、そこには買い手候補の現時点で希望する
M&Aのスケジュールや譲渡価格・条件などが記載されています。
つまり、買い手の条件を具体的に売り手にオファーする書面なのです。
意向表明書を提示した後、双方で具体的に条件交渉をすることがあります。

ここでオファーした買収希望価格が、売り手の売却希望価格よりも低すぎると
売り手が気分を害して交渉が終了してしまいます。
更に複数買い手候補がいる場合、買収希望価格で比較されることも多いので
安すぎるとセリ負けてしまうことも多々あります。

しかし、高すぎるとそもそも予算の問題もありますし
仮に高い価格で買えたとしても投資回収ができないと投資する意味がありません。
高い価格で買うことはM&A/事業承継の失敗の大きな原因の一つですので
高すぎる価格で提示するのはやめましょう。

その他、買い手希望のスキームが売り手希望のスキームと合わない可能性があるので
買い手が意向表明書で希望のスキームを提示して、交渉をすることが必要になります。
スキームの検討は、会社法や民法、会計・税務の知識が必要で
+ビジネスに対する理解があるとより良いスキームの検討ができます。
そのため専門家と相談しながら、売り手とスキームの交渉しましょう。
売り手・買い手ともに専門的な知識がないがために
株式譲渡か事業譲渡のみで検討していますがこれはもったいないです。
他のスキームを使えば、双方のニーズを満たしたM&A/事業承継ができる可能性が十分にあります。

また売り手の希望条件(従業員の雇用継続など)を意向表明書に記載することで売り手の印象が良くなります。
そして意向表明書を提出した後、売り手と条件でズレがある場合
本当に欲しい案件であれば諦めるのではなくまずは交渉しましょう。

意向表明書は、必須プロセスではないので省略されることもあります。
しかし、事前に双方で必須条件の確認はしておくことをお勧めします。
後で言うと揉めることが多いですので、早めに伝えるのがトラブル回避に繋がります。


⑸:基本合意書の締結
上記を踏まえて、両者がM&A/事業承継を前向きに進めたいという意思があり
「意向表明書」に記載の取引条件に概ね合意した場合、「基本合意書」の締結に移ります。
「基本合意書」を締結することで、売り手・買い手双方のM&A/事業承継について、双方の認識や条件、今後のスケジュール等、具体的な摺り合わせを行います。
「基本合意書」を締結すると、多くは独占交渉権が付与されますので競争相手がいなくなり
結果として買い手は立場が強くなりやすいです。
しかし、M&A/事業承継が決定したわけではありません。
破談する可能性はまだまだありますので、そこは対応に注意しましょう。
上記を実施したのち、「④デューデリジェンスの実施」に続いていきます。

ここでのポイントは、基本条件の確認です。(前半は売り手とほぼ同じ内容です。)

基本合意書とは、買い手候補と売り手でM&A/事業承継の概ねの条件等の合意が得られた時点で、両当事者間で取り交わされる書類のことをいいます。
基本合意書は、両社が双方の意志を確認する目的で締結されます。
これは基本的に、法的拘束力はありませんが優先交渉権や独占交渉権が付与されていたり
特定の条項には法的拘束力が生じることがありますので中身を専門家とともに確認する必要があります。

また基本合意書を締結することは、基本的にM&A/事業承継を実施することを前提としていますので、安易な気持ちで締結してはいけません。

特に買い手は、これからデューデリジェンス業務(DD)を実施することが多いですが
DDにも金銭的・時間的コストがかかります。
そしてスキームやM&A/事業承継の条件、今後のスケジュールや
価格についても記載があることが一般的ですのでそれらの点も法的拘束力はありませんが
その後変更するには相応の理由がないと売り手は納得してくれないのでご注意ください。
価格を特に理由もなく大幅に下げるのはM&A/事業承継が失敗することに直接繋がります。
そこに気を付けて金額や条件を確認しましょう。
加えてDDに協力してもらえるように条件を付けくわえておくことも大事なことです。
大まかな条件交渉は、意向表明書を提出した後交渉し
細かな条件などは基本合意書を締結する際に交渉するイメージです。

DDはベテランが本気でやると、ほぼ間違いなく何か見つかります。
そして財務DDや税務DDで何かを見つけるとはつまり、間違いなく買収価格が下がることを意味します。
DDをして買収価格が上がることは無いと思って問題ありません。
そこも含めて、価格を決めておくのは買い手の交渉の隠れたポイントになります。
もちろんDDで発見事項があったからと言って
全てが価格に反映されるとは限りませんのでご注意ください。

お互いのパワーバランスを一定に保ち、フェアな条件でM&Aを完了させるためしっかりと検討して
基本合意書を締結しましょう。
基本合意書を締結した後は、基本的に売り手は当該契約相手のみと交渉することになります。
(買い手は、他の案件を同時進められないわけではありません。)