コラム

Column
2023.12.10

MAに伴う労務問題

中小M&Aでは、大手企業ほど会計監査や情報開示が徹底されていないため
労務課題が後に現れやすいと傾向があります。

具体的には、株式譲渡や事業譲渡に伴う組織再編行為において
労務リスクが顕在化しやすく、買い手企業はこれらの要素に留意する必要があります。

株式譲渡の場合
売却による株式譲渡では、労働契約の主体である使用者が変わらないため
雇用関係に直ちに問題は生じません。
ただし、M&A前に未払い賃金や従業員からの訴訟があれば
買い手企業はそれらの債務や訴訟を引き継ぐ可能性があります。

事業譲渡の場合
事業譲渡においては、労働契約の承継には従業員の「承諾」が必要であり
労働条件について説明と納得が必要です。
売り手企業との労働問題があれば、原則として売り手企業が処理するため
事前の十分な調査が必要です。

会社分割・合併(組織再編)の場合
会社分割によるM&Aでは、「労働契約承継法」に従った手続きが必要であり
労働条件が買い手企業に包括的に承継されます。

M&Aにおいては、株式譲渡や合併などの形態によって異なる労務リスクが生じます。
株式譲渡の場合は未払い賃金や訴訟などが買い手企業に承継され
合併の場合も権利義務が包括的に承継される。

厚労省の指針を参照しつつ、労働条件変更時には注意が必要である。
また、合併の際も偶発債務や労働条件変更のリスクに留意が必要である。
そのため、労務リスクへの予防的対策が重要であり
M&A後に労務課題が発覚する前にリスクヘッジ手法を検討することが勧められる。

労務DD(Due Diligence)や表明保証条項等によるリスクヘッジの重要性
M&Aにおいては、異なる形態による労務リスクに備えるために
予防的な対策が不可欠です。
M&A後には労務課題に対処する余地が限られているため
事前にリスクヘッジを行うことが重要です。

労務DD(Due Diligence)
事前の労務デューデリジェンスは
買い手企業が買収対象企業の労務状況を詳細に調査する手法です。
これにより、潜在的なリスクや問題点を事前に把握し、適切な対策を講じることができます。

表明保証条項
契約書における表明保証条項は
売り手が特定の事実を買い手に対して保証するものであり
これによって買い手は労務面でのリスクに備えることができます。
表明保証は売買契約書の中で具体的に定められ
労務条件の変更や未払い賃金の問題などに関する保証を含むことが一般的です。
これらの手法を組み合わせて、M&Aにおける労務リスクを最小限に抑えることが求められます。
特に、労務DDと表明保証は、買い手企業が安心して取引に進むための重要な手段となります。

労働契約の変更に注意が必要
M&A後、買い手企業が労働条件を変更しようとする場合
従業員の合意が必要であり、労働条件の不利益変更には
慎重に対処する必要があります。
労働契約の変更が適切に行われない場合
従業員との対立や訴訟の原因となりかねません。
そのため、変更を検討する際には厚生労働省の指針を参照し
十分な説明と協議を行い、従業員の理解を得ることが重要です。

指針や法令の遵守
M&Aにおいては、厚生労働省の指針や労働関連の法令を遵守することが不可欠です。
特に、労働契約の変更や組織再編に際しては
適切な手続きと法的な規定を順守することが求められます。
指針や法令の遵守により、労働リスクを最小限に抑え
円滑なM&Aの実施が可能となります。

これらの点に留意し、M&Aプロセスにおいてはアドバイザー等と連携し
労務リスクに備えることが成功の鍵となります。


【参考資料】厚労省の指針
*「分割会社及び承継会社等が講ずべき当該分割会社が締結している労働契約及び労働協約の承継に関する措置の適切な実施を図るための指針」
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12600000-Seisakutoukatsukan/0000141999.pdf